「資本・法定準備金減少と自己株取得等の実務−法務・会計・税務・登記−

はしがき

 資本減少及び法定準備金減少そして自己株式の取得・消却は、主に企業規模の縮小に用いられるせいか、あまり顧みられることもなく、実務書もあまり見あたらなかったのが実状でした。企業規模は常に拡大しなくてはならず、市場は拡張し続ける、これが今までの暗黙の前提となっていました。しかし、安定成長期に入り、拡大する市場もあれば、縮小する市場もある、豊満した市場はその中の企業の再編を促し、合併、企業規模縮小、そして、最も厳しくは市場退場を図ります。

 このような状況の中にあって、増資、新株予約権付与といった自己資本の拡大の対極にある、自己資本の縮小、発行済株式数の減少にスポットを当て、体系的な実務書を目指したのが本書です。

 従来から、資本減少等の法律書、税務会計実務書はありました。しかし、法律、登記、会計及び税務の全てをカバーする本は見あたりませんでした。特に、資本減少か自己株式取得か、株式消却か株式併合か、といった代替的な手段のあらゆる面での比較を可能とする本はほとんど無かったように思います。また、税務、会計面では、規定の不十分さから、実務として使える領域まで踏み込んだ本も数多くはありませんでした。

 中小企業から公開企業にいたるまで、企業内管理者から実務家まで、この一冊であらゆる実務が担えるような本を目指しました。従って、標準スケジュールや書式文例を数多く挟み込み、登記書式の実例や税務申告書記載例のほか、最近目にするようになった種類株式の減少や証券取引法上の自己株式取得規定の解説も含めております。なお、紙幅の関係上、株式会社を前提とし、他の会社形態は省略させていただきました。

 さて、平成18年より新「会社法」が施行される予定です。資本減少及び法定準備金減少そして自己株式の取得・消却に関する規定も大きく変わります。現状での判明している範囲での改正内容を本書に織り込みました。現行法部分と改正法部分の混同を避けるため、改正法部分はまとめた形で記載してありますが、現行法の参照条文については、(商**条・会社**条)といった形式で、改正法も参照できるような記載方法を全面的に図りました。なお、現行法と改正法との条文に1対1の関係がない規定もありますので、新「会社法」参照条文はあくまで参考としてご利用いただければ幸いです。現行法では規定がありますが、改正法では削除された規定については、(商**条・会社削除)と記載してあります。

 本書が、現行法「商法」下での資本減少及び法定準備金減少そして自己株式の取得・消却に関する法律、登記、会計及び税務実務の総括の役割を果たし、全く白紙の状態である新「会社法」下での今後の実務のベースとなり、新と旧との間での“架け橋”となることを強く望みます。

 私どもの事務所で、条文や誤字脱字等をチェックしてくれた今村眞由美、落合美典、そして、本書の丹念な校正を行っていただいた新日本法規出版企画局の方々に感謝いたします。

平成17年7月

執筆者代表  都築 敏